音楽を楽しむにあたり、「リリック」という言葉を見聞きすることが増えました。リリックは流行歌の歌詞を意味しますが、日本ではラップの歌詞をリリックと呼ぶことがあります。
今回は、リリックとはどのような言葉なのか、由来やライム・フロウ・ポエムとの違い、リリックの対義語などについて分かりやすく解説します。リリック・ライム・フロウ・ポエムの使い方と例文もあわせてご紹介しますので、リリックの詳細を知り、正しく使いたい方はぜひ当記事をご覧ください。
1.リリックとは
現在リリックは、流行歌などの歌詞を指す言葉として使われています。リリックの語源である「lyric」は、あらゆる曲の歌詞の意味もあります。特に日本では、ラップの歌詞をリリックとして呼ぶことも。抒情的でなくても、ラップの歌詞はリリックと言えます。
リリックの本来の意味は、抒情詩(じょじょうし)です。漢字は異なりますが、抒情詩と叙情詩は同じ意味をもちます。抒情詩とは、詩人が主観的な感情や思想を表現した詩です。
またリリックの派生として、抒情的で感動した意味をもつリリカル(lyrical)があります。たとえば「コンサートのラストは、リリカルな新曲で締められた」「バンドの新曲は、映画の主人公が失恋した気持ちと重なったリリカルな劇中歌としても採用されている」などと使います。
1-1.リリックの由来
リリックは、古代ギリシアで生まれたと言われています。古代ギリシアでは、リラ(lyre)と呼ばれる竪琴(たてごと)の美しい音色に合わせて、古代ギリシア人が気持ちを表現していたと記録に残っています。
リリックを歌詞の意味として使うようになったのは、歌詞表示されたミュージックビデオ「リリックビデオ」が影響しています。リリックビデオの始まりは、ボブディランの「Subterranean Homesick Blues」のミュージックビデオだと言われています。
日本のリリックビデオの火付け役は、ヤマハが開発した音声加工技術を使ったボーカロイド曲だと考えられています。人気ボーカロイドの初音ミクを聞いたことがある方は多いでしょう。ボカロPなどが、歌詞が伝わりやすいようにリリックビデオをイラストレーターに依頼して、動画サイトに投稿を始めたことがきっかけです。
1-2.ライム・フロウ・ポエムとの違い
リリックの類義語としてライムとフロウがあります。ライムとは「韻を踏む」意味をもち、ラップで使われる言葉です。韻を踏むことは、リリックの終わりなどの決まった場所を、同じ母音を揃えることを指します。
たとえば、ライムは文末に感情や信条、根性などの同じ母音の単語をリリックに盛り込みます。文末以外にも、文頭や文全体を揃える高度なテクニックもあり、ライムを決めることがラップの出来上がりに大きく影響します。
フロウとは、ラッパーの歌い方や歌いまわしのことです。たとえば、リリックに強弱を付けたり、節を上げ下げしたりすることで、感情や表情を曲に乗せて表現します。フロウを利用することで、リズミカルな曲になります。フロウは歌声の抑揚やリズムの乗せ方、ビートとの相性で評価されます。
抒情詩と歌詞の意味をもつリリックとポエムが、似ていると感じる方も多いのではないでしょうか。ポエムは詩全体を指す言葉なので、抒情詩であるリリックはポエムに含まれると考えられます。
日本では、SNSなどに書かれる自己陶酔感の強い呟きもポエムと呼びます。からかう意味として使われるようになったのは、一般人が詩的な文章を作ると妄想ぎみとなり、見ている人が恥ずかしい気持ちになるためです。
1-3.リリック以外のラップ用語
リリック以外にも、ラップ用語は多く使われています。若者用語としても使われている「バイブス」は、ラップ用語では「雰囲気や情熱、気合」を指す言葉です。ラップを聞いているときに、勢いを感じるラッパーには「このラッパーにはバイブスを感じる」などと使います。
ラップ用語の「レペゼン」には「象徴する・代表する」意味で使われています。レペゼンの語源は「represent」で、言いやすさからレペゼンとしてラップ用語で使われるようになりました。最近では、人気DJ集団「レペゼン地球」のように形容詞として、後ろに名詞を置いて使います。
「フリースタイル」とは、ラップ用語で即興でラップをすることを意味する言葉です。特定のキーワードなどを決めないまま、ラップを始めます。即興で作ったラップで相手を攻撃して、勝敗を決める「フリースタイルバトル」が人気です。フリースタイルバトルでは基本的に韻を踏みながらリズムに乗る必要があるため、フリースタイルラップバトルのトーナメントで優勝する人は上級者と言えます。
2.リリックの対義語
リリックの対義語は、エピック(epic)です。エピックとは、歴史的な出来事を記述する叙事詩(じょじし)を指します。たとえば、国の誕生秘話など、歴史的な英雄がさまざまな事件を乗り越えながら活躍する物語などがあります。
映画のジャンルのひとつでもある「epic film(叙事詩的映画)」は、歴史的出来事や英雄詩などの実際に歴史上にあったことを描く作品です。抒情詩と叙事詩、戯曲形式で書かれた劇詩の3つを合わせて、詩の三大部門と呼んでいます。
エピックをスラングでは「(叙事詩のような)英雄的な」「(叙事詩のような)壮大なスケール」の意味で使います。つまり、「素晴らしい」「最高の」という意味として使われることもあります。
3.リリックの使い方と例文
リリックを知ったとしても、使い方が分からないと実際に話の中で使用できません。ここでは、リリックの使い方と例文を解説します。
リリックは「歌詞」の代わりに使うため、名詞として扱うことが一般的です。たとえば「リリックがいい」「印象に残るリリック」などのような言い回しができます。リリックを使った例文をまとめましたので、参考にしてください。
- ホラー映画で流れていた劇中歌のリリックをネットで調べたら、映画の内容を思い出して鳥肌が立った。
- 好きなアイドルグループの新曲は、リリックが良くて泣ける。
- 先週公開された人気アーティストのリリックビデオは、有名なイラストレーターとコラボしていて、非常におしゃれな映像だった。
- あのシンガーソングライターが書くリリックは、恋する男性の気持ちがよく現れている。
- 有名な作詞家が手がけたリリックは、どのような時代の人々の心にも刺さる。
3-1.ライム・フロウ・ポエムの例文
ここからは、ライム・フロウ・ポエムの例文を紹介します。まずはライムの例文を3個紹介します。
- 文化祭でフリースタイルラップバトルに出場することになったが、ライムをどうやっても即興で刻めない。
- プロのラッパーが刻むライムの量は多く、聞いていて圧倒される。
- 人気アーティストの曲のリリックをスマホで確認したら、多くのライムが刻まれていた。
次にフロウの例文を3個紹介します。
- 好きなアイドルグループのラップ担当のフロウが良く、テンションが上がる。
- 推しのラッパーのフロウで会場が盛り上がるから、一緒にライブハウスに見に行かないかと友人から誘われた。
- 音楽番組の特集で、人気DJ集団の曲がフロウが印象に残る楽曲と紹介されていた。
最後にポエムの例文を3個紹介します。
- 彼女のポエムは、心を打つものがある。
- 友人のInstagramはポエムのような投稿ばかりで、たまに見ていて辛くなる瞬間がある。
- 部下の報告書がポエムのような文章になっていて、アドバイスに困っている。
まとめ
リリックとは、流行歌などの歌詞を意味し、語源である「lyric」はあらゆる曲の歌詞を意味します。日本ではラップの歌詞をリリックと呼ぶなど、国によって主な使い方は違います。
リリックと似た用語としてライム・フロウ・ポエムがあり、リリックと同様にライムとフロウはラップで使われます。一方のポエムは、詩全体を指す言葉です。リリックはポエムの1つと言えます。リリックの対義語は「エピック」で、歴史的な出来事を記述する叙事詩を指します。
今回ご紹介した例文を参考に、ぜひ日常生活で用語を使ってみてください。